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道ばたの文化財 庚申塔
船橋市の文化財をひろみさんが紹介します
ひろみさん
大学生。
船橋市に住んでいる。
みさきちゃんたちのおとなりさん。
みさきちゃん
小学校5年生。
ゆうとくんのお姉さん
ゆうとくん
小学校3年生。
みさきちゃんの弟(おとうと)
どこにあるの?
道ばたとか、いろんなところ
お墓!? | |
ねえ、ひろみさん。学校から家に帰る途中に、石で作ったお墓みたいなのがあるよね。大通りから入ったところの、道ばたに立ってるやつ。 | |
ああ、あれねー。よく見るとおもしろいよね。怒った顔をした鬼みたいな像がほってあって、3匹のサルみたいなのもいて。 | |
えー、みさきちゃんおもしろいの?なんかこわいよぉ。あれは何?……やっぱりお墓なの? | |
あれはお墓じゃなくて庚申塔だよ。別にこわくないよー。船橋市内だけでも300以上あって、全国でもよく見ることのできる、石で作られた、石造文化財だよ。 | |
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こうしんとう・・・?お墓じゃないんだぁ。でもそれなら何なの? | |
えーとね、昔の人たちに信じられていた、庚申信仰というものがあったの。60日にいっぺん、年に6回まわってくる庚申の日の夜に、みんなが集まって寝ないで過ごして、健康で長生きできますように、って祈ったんだ。 | |
徹夜するのが信仰なの?なんかの宗教? | |
庚申信仰のもともとのはじまりは中国の道教だと言われているよ。日本には平安時代ごろに伝わってきて、仏教と結びついて広まったけど、宗教っていうよりは民間信仰って感じかなあ。 | |
庶民の間で広まっていたんだね。 | |
しょみんって何? | |
庶民は農民とか町人とかの普通の人のことだよ。大名とか貴族とかのえらい人たちじゃなくってさ。民間信仰っていうのは、普通の人たちの間で信じられていた、ってことでしょ、ひろみさん? | |
そういうこと。でも、庚申信仰が日本に入ってきた平安時代のころは貴族が信じていて、そこから広まったんだけどね。 | |
ふーん・・・。 | |
庚申の日には、人間の体の中にいる虫が、眠っている間に抜けだして、その人の60日間の悪い行いを天帝に告げ口して、命をちぢめると言われていたの。あ、天帝っていうのは古代の中国で考えられていた一番えらい神様ね。 | |
む、虫・・・・・・人間の体の中に~?悪いことをしたら虫が告げ口するの~? | |
そう信じられていた、ってだけの話でしょ。まあ、あんまり考えたくないけど。 | |
その虫が天帝に告げ口できないように、庚申の日の夜にはみんな寝ないで徹夜したのね。それが庚申信仰。 | |
なるほどねー、命をちぢめないように見張ってたんだ。健康で長生きできますように、ってそういうことか。その庚申信仰ってやつと、庚申塔がどうつながるの? | |
この信仰は江戸時代ころから、一般の人たち、普通の人たちに一気に広まるの。同時に、全国のあちこちで庚申塔が作られるようになったよ。作ることでご利益があると考えられていたから、本当にたくさん作られたんだよ。村の人たちみんなでお金を出しあったりしてね。 | |
船橋市内にも300以上残っているって言ってたもんね。 | |
庚申塔のかたち | |
みさきちゃん、さっき庚申塔に鬼みたいなこわい顔の像がほってある、って言ってたよね。でもあれは鬼じゃないよ。青面金剛っていうの。すごい力があって、病気をはらってくれると思われていたんだよ。 | |
神様みたいなもの? | |
まあ、仏教の神様のひとつと考えてもいいかな。庚申塔には、たまにお釈迦様とか、他のものがほってあるものもあるけど、庚申塔の本尊とされている青面金剛がほられていることがずーっと多いよ。 | |
庚申塔に青面金剛はお決まりなんだ。 | |
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あと、3匹のサルがほられているよね? | |
そうそう!ねえ、これって見ざる、言わざる、聞かざるの形してない? | |
何それ? | |
サルの1匹は手で目をふさいでいて、1匹は口をふさいでいて、残りの1匹は耳をふさいでいるの。見ざるは「見ない」、言わざるは「言わない」、聞かざるは「聞かない」ってこと。 | |
三猿っていう有名な形だね。この3匹のサルも庚申塔にはよく使われているね。 | |
おもしろーい! | |
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まんなかに大きく青面金剛。日と月。にわとり。邪鬼。3匹のサル。こんな感じのものが石にほられているのが、庚申塔のよくある形だよ。 | |
すごくにぎやか。 | |
邪鬼 にわとり
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でも、これを全部ほって作るのは、こまかくって大変だよね。だから、たとえば、にわとりや鬼を抜いて作っているものもあるし、江戸の終わりごろになると、文字だけの庚申塔が多くなるんだよねー。 | |
文字だけって? | |
文字で、「青面金剛」とか「庚申塔」って書いてあるの。 | |
それつまんないなー。 | |
文字だけの庚申塔も、いつ作ったのか、誰がお金を出して作ったのか、とかは書いてあると思うから、昔のことを想像してみたらきっと歴史を感じるんじゃないかな。 | |
庚申塔 |
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十干十二支 | |
ちなみに庚申の日は訓読みで「かのえさる」の日とも読むよ。 | |
カノエサル?なんだか呪文みたい。 | |
「かのえさる」のサルは動物のサルのことだよ。庚申の日って、サルの日ってことなの。 | |
あっ、だから3匹のサルが庚申塔にほってあるの? | |
そのとおり。 | |
そういえばそのカノエサルの日、庚申の日って何なの?60日にいっぺんまわってくる、って言ってたけど。どうやって決めてるの? | |
これはね、大昔の中国の考えによる、日の数え方なの。甲、乙、丙……の十干と、子、丑、寅……の十二支を組み合わて、60通りつくったのね。これを年や月、日にあてはめて表したんだよ。庚申は「かのえ」と「さる」を組み合わせた言葉だよ。 | |
あれ。ねーうしとら、って聞いたことあるよ。ねーうしとら、うーたつみー、うまひつじさる、とりいぬいー、だよねっ | |
なるほど、十二支ね。 | |
この十干と十二支の組み合わせを干支(カンシ)(えと)といいます。十干の「干」と十二支の「支」の字をあわせると「干支」って字になるでしょう?今の私たちにも干支ってなじみがあるけど、十干の方は省略して十二支だけ使うことが多いよね。 | |
十干(じっかん)
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ん?十干の読み方って、もしかして法則がある? | |
ほうそく? | |
ほら、十干の訓読み、決まった形があるみたいじゃない?きのえ、きのと。ひのえ、ひのと。つちのえ、つちのと・・・・・・ | |
あっ。えーと、「きの」とか「ひの」とかの言葉に、「え」「と」っていうのが後ろにくっついて繰り返してるんだー。 | |
みさきちゃんさすが!よく気付いたね。ゆうとくんもすごいよ。この読み方の理由はね、五行説っていう、ちょっとむずかしい話になってしまうんだけど・・・・・・ | |
むずかしくてもいいよ。ひろみさん、教えてくれる? | |
・・・い、いちおう教えて? | |
あはは。わかりました、教えましょう。 | |
五行(ごぎょう) | |
十干十二支は昔の中国の考え方だって言ったよね。今から教える五行説も、やっぱり昔の中国の人の考えなの。五行では、木・火・土・金・水の5つが世の中の全部のものを作って、成り立たせているって考えたのね。 | |
えー、本当?そんなのムリ。うそだよー。 | |
そうだねえ。今は科学が発達して、五行の考え方はどうも正しくないぞ、ってわかるようになりました。でも、正しいとか正しくないとかより、2000年以上前の中国の人はそう考えていた、っていうのが大事だよ。 | |
そうだよ。今は科学のお勉強をしてるわけじゃないでしょ。だけど中国ってやっぱりすごかったのねー。そんな大昔の人たちがいろいろ考えていて、今に伝わって残っているっていうのが驚き。 | |
この五行の考えが、前からあった十干の考えと結びついたの。 | |
? | |
もう一度言うけど、五行は木・火・土・金・水だよ。ほら、気付かない?十干の読み方。「え」と「と」を取ってみると・・・・・・? | |
きの、ひの、つちの、かの、みずの・・・・・・あっ。 | |
「きの」は木、「ひの」は火、「つちの」は土、「かの」は・・・、金?「みずの」は水。五行にあてはまってるんだ! | |
金だけはちょっと読み方が変わってるけど、まったくそのとおりだよ。さらにこれが日本に入ってきてから、それぞれを「兄(え)」と「弟(と)」に分ける考え方ができるの。だから五行に「え」と「と」を順番にくっつけて読むんだ。十干の読み方にはそんな理由があるんだよ。 | |
へえーっ。すごくおもしろい、ひろみさん。 | |
んーと、おもしろいけど、ちょっとややこしいね・・・。 | |
本当、ややこしいよね。全部わからなくても大丈夫だから。そうそう、庚申塔の話をしてたんだったね。 | |
そうだった! | |
庚申塔って、気にしてなかったら、道ばたにある石でしかないと思う。でもこんなふかーい考えから生まれたものなんだって、なんとなくでも、わかってくれたかな。 | |
昔の人っておもしろいこと考えていたんだなあって、しみじみしちゃう。教えてくれてよかった。どうもありがとう。 | |
ふふ。どういたしまして。 | |
干支って年にだけ使うものだと思ってたけど、日にも使うんだって初めて知ったよ。 | |
干支がちゃんと毎日書いてあるカレンダーもあるよ。私の部屋にかかっているのも書いてます。さあ今日は何の日でしょう?明日は? | |
えっとー、今日は丁卯(ひのとう)。へえー、今日はうさぎの日なんだ。 で、明日は戊辰(つちのえたつ)。 |
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音読みすると丁卯(ひのとう)はテイボウ、戊辰(つちのえたつ)はボシンとも読むよ。 | |
次の庚申の日はいつかな? | |
うーんと……、1ヶ月以上先だね。 | |
よーし僕も徹夜してみようかなっ |
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やめなさいよ、平日なんだから。次の日どうするの。 | |
あはは。会社づとめをしていたり、学校に行っている人には、なかなかできないことだよね。日本の社会も変わってしまったから、現代で続けていくのは大変だと思うけど、全国には今でもやっているところもあるんだよ。かなり少なくなってしまったけどね。 | |
船橋市内には庚申塔の他にも石造文化財がたくさんあるよ。わかっているだけで3000以上あるんだ。道標とか、馬頭観音塔とか、種類もいっぱいあるよ。気づいていなくても、いつも通っている道にも、もっとあるかもしれないね。 | |
今度探してみようかなー。 | |
馬頭観音塔
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石造文化財は道ばたにあったり、個人が持っている土地の中にあったりするから、場所を移動させられたり、残念だけど無くなってしまうこともあるんだ。人によっては必要ないと感じたり、道を広げたい時や家を建てかえたい時に邪魔になったりすることもあるからね。 | |
ええっそうなんだー・・・ | |
しかたがない時もあるだろうけど、なるべくなら残していければいいと思うよね。その土地に住んでいた、普通の人たちの、庶民の文化を物語るものだもの。 | |
うん。昔の船橋に住んでいた人たちが、どんな意味をこめて、どんな気持ちでつくったのか、って想像すると、大切にしたいなって思う。地域の大事な文化財だね。 |
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