下水道は何故必要なのか

更新日:平成28(2016)年3月22日(火曜日)

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初めに

地震や災害が起きたときに、新聞の見出しでは「ライフラインの断絶」「停電、ガスの供給停止」「食料や水の不足」といった文字をよく目にしますが、「トイレが無くて困っている」は、あまり見たことがありませんね。日本人の国民性(文化)が糞尿の話を避けているのかも知れませんが、人間は、食べなくても、飲まなくても、時間が経つとモノが出てきます。それが、流れない・溢れているとなると、ただ事ではありません。そうなって初めて知る、下水道のありがたみ。人が集まって住む文明社会では、無くてはならないライフラインなのです。日本では江戸時代に代表される資源循環社会で、糞尿は農作物の肥料として重要視されていたのが、一転、文明開化により、ほんの短期間で不要物になってしまったことが、ライフラインという気持ちが育成されなかった一因かもしれません。

そこで、「なぜ下水道が必要か」を知るためには、すこし、歴史の中から読みとらなければいけません。下水道という言葉の中にもあるように、飲み水である上水道の歴史も関わって、遠回りになるかもしれませんが、しばし、お付き合いを願います。

人間が生きるために

飲み水が必要です。何かの本に書いてありましたが、動物は食料より、水分が重要なのです。人間も動物である以上同様に、水が近くにないと生きていけません。人が集まる大きな町のためには大きな水源が必要なのです。古代の大都市ローマでは、比較的水場から遠い場所に都市を作り、技術力を結集し、そこから上水道を引くことで、必要な飲み水を確保し大都市を維持したのです。ローマ時代の遺跡として各地には上水道を引くための水道橋が今も残っており、観光名所にもなっていますね。また、余った水を利用した公衆浴場、水洗便所、水を捨てるための道路側溝(道路の脇に造った排水用の溝)なども造り、現代から見ても素晴らしい都市基盤が整備されています。市内には公衆トイレが114箇所もあり、その全てが水洗化されていたというから驚きです。技術屋としては、この水を引くためや流すための施工技術にも感心しますが、もしかしたら、わざと、水源から遠くに都市を作ると考えた都市計画はもっと素晴らしいかもしれません。後述しますが、そうすることで、糞尿による飲料水の水質汚濁を防げるのです。ちなみにギリシャでは下水道施設が見つかっていません。大都市化出来なかった理由の1つかもしれません。

文化の違い

素晴らしい都市基盤を持ったローマ帝国ですが、残念ながら、牧畜や農耕をしながら移動して来たゲルマン民族が時代を引継いだことで、都市基盤は失われてしまい、そのまま下水道も忘れ去られます。牧畜、農耕民族は都市化・集中化しなかったので下水道施設の必要を感じなかったのでしょうか。また、ヨーロッパにおいて牧草などを育てるための肥料は、家畜の糞尿を使用して人糞は使用しなかったので単純にゴミ扱いでした。当時も家庭くずと同列に道端に捨てられていたと思われます。さて時代は中世に進み花の都パリ。人口が密集してきた町の問題は、先に話したように飲料水の確保です。パリにおいては井戸を掘り、それを飲料水としていました。その町では何故か、人口が増えてくると伝染病が流行し、人口が減少するという繰り返しでした。当時の人々には全く理由が分からず、病気に対する色々な対策が取られました。一例では、悪い血が溜まるのが原因だとの考えで身体の血を抜くとか、ベルサイユ宮殿で有名なルイ14世は「歯は病気の温床」という考えに基づき全ての歯を抜いていたとか。

中世の衛生環境

トイレという概念がなかったので、代用品として壺を使用していました。場合によっては普通の部屋の片隅で行っていたらしいです。また当時、ゴミは道路に捨てるのが常識でしたのでゴミの一種である糞尿も道路に投げ捨てます。道路の清掃は行われていましたが、近場の捨て場は満杯で、その臭いは強烈だったそうです。ちなみに土日は清掃休みです。そんな訳で、有名なナポレオンの肖像画で描かれているツバが広いハット、マント、ブーツは2階の住人が窓から捨てる汚物が道路に積もっている町を歩くために必要な時代の装備だったのです。今の私たちからすると、想像を絶する衛生環境だった中世。そもそも衛生という概念がなく、エリザベスⅠ世は1ヶ月に1回も入浴するのできれい好きとよばれていた、この時代。ベルサイユ宮殿は臭い中心部から逃げるためにも造ったとも言われていますが、パリの年間風向統計を当てはめると、ぴったり風上に位置していることから本当だったかも知れません。

疫病の蔓延

当時の考えでは、ペストは毛穴から水を通じて染みこむと考えられていたので、毛穴の広がる温入浴の習慣もなくなっていたそうです。またコレラは空気感染によるとされていましたので緑による浄化施設として木々が植えられ、ここから都市公園の概念が生まれたのかもしれません。ちなみに糞尿だらけの道路は馬車の通行には問題ありませんでしたが、人が歩くのには不適当でした。そこで一段上がった歩道が生まれました。道路には食べ残し、動物の死体、ゴミ、糞尿が溢れて、ネズミが徘徊し、それらを捨てる穴の隣に掘られた、井戸の水を飲んだり、汚れた川から取水した水道水を飲んでいるので、ペスト、チフス、赤痢に感染するのは当然です。1348年にはヨーロッパの人口の約3割にあたる2000万人以上がペストで死亡しています。この後も何度となくペストが大流行し、それは衛生環境が向上していないことを意味していました。ビクトルユーゴ著「レ・ミゼラブル」にあるパリの地下下水道も、今の下水道と違い、汚水を直接川に流すだけの施設で、しかもちょっと前までは全く維持管理が行われていなかったのでゴミがつまり悪臭のする無用の長物でした。

原因の発見

とある町医者が病人の住所を地図に落としたところ、井戸の場所と関係があることが判明しました。これをはじめとし、汚染された水から感染するコレラ菌、ネズミなどから感染するペスト菌、糞尿の経口感染によるサルモネラチフス菌や赤痢菌が次々発見され、病気の原因が判明したことで具体的な対策が考えられるようになりました。この発見には日本人の北里柴三郎博士や志賀潔博士が多大なる貢献をしています。それまで、直接川に流していた下水も、活性汚泥法という処理で浄化して流す下水道処理場も1914年イギリスで初めて設置されました。やっと近代下水道の始まりです。

近代下水道とは

西洋の人にとって、下水道がない時代は暗黒の時代だったので下水道の目的として・生活環境の改善(汚れた水を河川等に流さないことで悪臭が無くなり、清潔で快適な生活環境の確保) ・水質の保全(汚水を下水処理場で浄化してから放流することで、河川や海水質の保全を図る)が切実な願いとなるわけです。ところで汚水の処理方法は公共下水道だけではありません。他にも色々な方法があり、大きな下水処理場を作らなくても、汲み取り式や、個別浄化槽で対応するという考えもあります。一般的に次のような場合にそれぞれの処理方式が適しています。人口密度が少なく、糞尿の有効利用が図れる場合は汲み取り式。人口密度がそれなりで、既存の管や河川を利用出来る場合は個別浄化槽。人口密度が高く、管を新設する場合は公共下水道。船橋市では、それぞれの整備手法で整備した場合に、どの方式が最適なのかを検討し、その結果として、船橋市全域において公共下水道方式が適切となっています。

後記(でも浄化槽の方が・・)

「人口が多いから下水道が適していると言われても、自宅は浄化槽だし、今、なんの不便も感じていないから、浄化槽のままで」「浄化は必要だけど公共下水道でなくてもよいのでは?」という方は多いです。経営・費用・能力等を総合的に考えた場合、下水道事業の弱点はズバリ人口密度です。低いと採算が取れなくなりますが、全国の下水道処理区内人口密度を比較した場合、船橋市は122人/ヘクタール(総務省「平成25年度下水道事業経営指標・下水道使用料の概要」の処理区域内人口密度より)で、全国的にみても上位ですのでこの点は大丈夫そうです。一方浄化槽の弱点は意外にも費用です。個人の観点から見ると設置・点検費用位の負担ですので下水道より安く感じますが、流す先の管の維持管理や浄化槽汚泥の処理施設にかかる市が持ち出す費用を総計すると下水道より割高になるのです。もう一つの弱点は浄化能力でしょうか。BOD(生物化学的酸素要求量。水の汚濁状態を表す指標で、一般的にBODの値が大きいほどその水質は悪いと言える。)という汚れの指標で比較した場合、西浦下水処理場からは1.1ミリグラム/リットル(H26年度)という、清流並みの処理水が出てきています。浄化槽ですと高度処理型といえここまではいきません。ちなみにシンガポールでは下水道処理水をペットボトルにしているくらいです。きれいすぎて味がないとか。今の環境を大切にすることはもちろん、子孫にきれいな環境を引き継ぐためにも必要な都市基盤施設として下水道事業を進めています。

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