船橋市美術館運営等検討委員会提言書

更新日:平成27(2015)年2月23日(月曜日)

ページID:P034838

概要

船橋市美術館運営等検討委員会(委員長 前川 公秀 氏)では、平成25年8月から平成26年11月までの間、11回の討議のもとに船橋市の美術館のあり方及び運営等についての提言をまとめました。
平成27年2月9日、提言書提出式を行いました。

名称

船橋市美術館運営等検討委員会提言書

本文

1. 委員会の設置と目的

1 委員会の設置

 船橋市の美術館構想は、平成12年9月に(仮称)清川記念館運営検討委員会(会長・加藤貞雄)の提言がなされ、平成16年に「(仮称)清川記念館」基本構想検討委員会(委員長・加藤貞雄)により「「(仮称)清川記念館」基本構想」が作成された。それを受け建築実施設計まで完了したが、その後諸般事情により建設がなされず約10年が経過している。その間、社会情勢や市民が美術館に求めるものへの変化が生じており、また新たに船橋市本中山1丁目6番10号にある吉澤野球博物館の建物、資料を市が受贈する予定となり、その活用について美術館構想と一体化して検討する必要が生じた。そこで新たな美術館(以下、「新美術館」と称す)について、既存の基本構想を見直し、それに基づく運営等を検討するため、本委員会が設置された。

2 検討にあたる基本的な姿勢

本委員会において、新美術館の新たな構想を策定するにあたり、平成16年に作成された「「(仮称)清川記念館」基本構想」の検討を行った。

  1. 建設予定地について
    現建設予定地は、JR船橋駅からほど近く、山口横丁と呼ばれる商業施設が密集した地域に位置している。隣接する道路は一日を通して人の往来が多く、繁華街の一角にあるところから夜間も遅くまで人通りがある点が特徴的である。しかし、美術館に至る道路は、道幅も狭く、一方通行であり、駐車スペースも確保することができない。これにより自動車による来館及びバスによる団体の利用を図ることは困難である。
     
  2. 建物の実施設計案について
    予定される建物は、敷地面積963.39平方メートル、建築面積382.15平方メートル、延床面積1145.09平方メートルであり、非常に狭小な建物である。さらに美術館への作品を搬入するルートも実際には非常に使いづらいものであり、美術館の機能としての資料の収集、保管、展示などの活動を充分に果たすことは難しいと考えられる。
     
  3. 収蔵作品について
    市が保有する作品は、「清川コレクション」を中心とした船橋ゆかりの作家たちの作品である。「清川コレクション」の中心となるのは、当市に在住し活動した椿貞雄であるが、椿のコレクションとしては充実したものと考えられる。しかし、椿は美術史上において岸田劉生の名声に隠れ、一般的な知名度のある作家とは言えず、美術館収蔵作品の中核としては物足りないと言わざるを得ない。また、その他の作品についても、特色のあるものではなく、美術館として活動していくには十分な作品群ではない。

以上の検討をふまえ、市内における美術活動ならびに全国の美術館における活動などの状況を加味し、本委員会の検討に際して次の基本的な姿勢を設定した。

  1. 建設予定地、建築規模などは、実施設計まで完了しており、それに基づく内容を出来る限り重視する。ただし、新たな活動を検討した結果、必要と思われる施設の整備の補充、変更は検討する。
  2. 建設予定地は、美術館活動を行うには適当な場所とは言い難いが、反面、既存の美術館のイメージにとらわれることなく、本町通り、山口横丁地区の立地、周辺の環境の利点を活用した新たな美術館像を検討する。
  3. 新美術館の収蔵作品の核となる「清川コレクション」は、新美術館建設の契機となったものであり、それを活用した公開の場を検討する。
  4. 市内の美術活動の現状については、アンデルセン公園内にある子ども美術館において、児童を対象としたワークショップや企画展示等を活発に行っており、また市街中心部には市民ギャラリーがあり、その利用率は非常に高く、市民の創作活動の発表の場として機能している。これらと一体化した活動の可能性について検討する。
  5. 全国には多くの美術館が設置され、特に首都圏においては活発な活動が行われている。船橋市は、首都圏に位置しており、これから新たに美術館を設置しようとするものであり、既存の美術館の活動の中に埋没すると考えられる。そのために、既存の美術館にはない独自性のある活動が必要であり、その特色を検討する。

2. 新美術館の使命と活動方針

1 新美術館の使命

以上のように既存の基本構想を検討した結果、設置予定地、建設規模、収蔵作品の内容、これから新たに美術館を設置するという条件などを鑑み、「美術作品を収集、保管し、展示して、鑑賞の場を提供し、さまざまなイベントを開催して市民が美術と触れる機会をめざす」という従来の美術館像ではなく、「美術による市民交流」という新たな美術館像の視点に立ち、次のとおり使命(ミッション)を定めた。

美術館の使命:アートを通じて市民のコミュニティー形成をめざす場とする

2 新美術館の活動方針

新美術館は、その使命を実現するために、次の3つの活動方針(コンセプト)を特徴的活動として実施する。

  1. アートによる市民の交流(コミュニティー・ミュージアム)
    アートを通じて人々が集い、いつでも自由に参加できるプログラムを用意し、創作性を高めるとともに、市民の交流の場となることをめざす。
     
  2. アートによる市民の憩い(カフェスタイル・ミュージアム)
    アートが飾られたスペースのなかで、市民がドリンクを飲みながら、ゆっくりと憩い、会話し、鑑賞することのできるオープンな場となることをめざす。
     
  3. アートによる市民の成長(インファントサポート・ミュージアム)
    新美術館では、アートを通じて市民の成長をめざすが、特に乳児から小児、児童を持つ子育て層の市民を中心とした市民間の相互支援の場となることをめざす。

この活動方針は、従来的な美術館活動を行うだけではなく、新たな美術館としての独自性を示すものであり、具体的活動の中心となるものである。それらは、それぞれが単独として行われるものではなく、相互に関わり合いながら、使命(ミッション)の実現をめざすものであり、新美術館の施設全体で実施されるものである。
この美術館における活動は、市民の多様な要望を調査し、それに応じた事業が計画され、市民が自らの意志で参加し、行動し、運営されることが重要である。常に活動主体は市民であるという視点において実施されなければならない。

3 新美術館の特色的な活動

新美術館の使命(ミッション)を実現するため、3つの活動方針(コンセプト)に基づき市民が交流し、憩い、創造していくための場を設定、それらの活動の支援を行うため、次のような特色的な活動を行うものとする。

設置場所との融合
美術館の予定地である本町通り、山口横丁地域は、JR船橋駅に近く、多くの飲食店が集中した繁華街であり、夕方以降に賑わう場所であるところから、多くの人々の往来がある。その環境を生かし、コミュニティーの拠点として充分な活動が可能である。そのためには、開館時間に柔軟性を持たせ夜間開館を行う。また、夜は外から光の輝きが見え、周囲の環境と融合した存在とする。

気軽な美術館をめざす
従来の閉ざされた美術館のイメージを解き放し、建物全体を自由なオープンスペースとし、市民が気軽に出入りし、憩い、楽しめる場とするため「カフェ」的なイメージと機能を持たせる。「カフェ」とは、市民がドリンクを飲みながら美術作品を鑑賞し、美術雑誌などを読むことができ、美術の会話ができる場所であり、開放的な美術館のイメージを象徴する言葉である。新美術館を「カフェ」とすることにより、従来にはないより開放的な美術館を考えている。そのため、収蔵作品のうち「清川コレクション」以外のものは、従来の展示室内での展示に限定されることなく、館内のいろいろなスペースに展示し、市民の憩いのアイテムとして活用する。
 この「カフェ」的なイメージは、新美術館の根幹的な特色となるものである。

さまざまなアートシーン
映像アートを積極的に取り入れ、映像アーティストや学生が制作したものをオープンスペースで常時放映する。また、イベントとして大型映画館、レンタルショップなどで取り扱っていないアート映像の上映などを行う。

アートと触れる場
さまざまなワークショップを行う。これは、時間を定めたものではなく、何時でも、誰もが参加でき、また離脱することができるものとする。そのためには、オープンスペースにおいて常に実施されていることが重要である。

Webの発信
コレクション・アーカイブの発信、国内外の美術館のイベント情報の提供を行うとともに、バーチャル美術館を重視する。たとえばDNPとルーブル美術館との提携により開発されたPERISCOPE(ペリスコープ)などを活用し、発信することにより、身体的、距離的な障害により展覧会を鑑賞できない市民に対してのバリアフリーをめざす。

インファントサポート
美術に関心を抱く年齢層である若い夫婦が、乳幼児などを連れて気軽に訪れることができるようにするため、乳幼児、児童のための子供トイレ、授乳室、キッズルームなどの設備を設け、幼児・児童を対象としたワークショップを行い、創造意識へのサポートを行う。この場に、子供を中心に多くの親たちが集うことにより、交流が生まれ、相互の育児サポートを期待することができる。

4 既存の構想を受け継ぐ活動

新美術館は、従来の美術館像に踏襲されることなく、アートに特化したコミュニティーセンター的な機能を持つ施設をめざすものであるが、市民が抱く従来型の美術館機能に対するニーズにも応えるため、一部分においては従来型活動を踏襲する必要もあると考える。それについては次のような活動を行う。

コレクションの展示
新美術館のコレクションは、清川尚道氏が寄附された「椿貞雄を中心とした清川コレクション」と、市が収集した「船橋ゆかりの作家の作品」とで構成される。後者については、前述したように従来型の展示ではなく、施設内全体においてオープン展示を行い活用する。しかし、市民のなかには、恐らく従来型美術館のイメージが強くあると思われ、日常から離れ異空間を求めて来る者も多くあると思われるので、「清川コレクション」については独立した展示室を設け紹介する。そのため、清川コレクションの展示室は、空調、照明、壁面ケースなどの美術館展示室の基本的な構造を設置し、従来の美術館イメージを継承する場とする。

貸しギャラリー
市民の創作活動の発表の場としてギャラリーを設置し、貸出しを行う。ただし、既存の市民ギャラリーとの共存を考慮するため、多目的な機能を持たせ、美術館の自主企画展の開催、招聘アーティストによる展示、映像作品の上映なども行うため、作品の展示機能とともに、映像設備なども併設する。また、招聘アーティストの展示においては、制作過程から公開することも考慮し、アーティストと市民との交流を推進し、アートを気軽に触れられる場を提供する。
 これにより、ギャラリーの貸出は、美術館が使用しない期間のみとし、さらにギャラリースペースの構造(天井高、広さ、オープン性など)を生かした作品の発表を優先することなどによって、スクエア21内にある市民ギャラリーとの連携、共存を図る。

ミュージアムショップ
 美術書籍、絵はがき、あるいはオリジナルグッズなどのほか、国内外の著名な美術館のオリジナルグッズなどを販売し、アートが市民の生活に取り入れられ、より身近な存在となることをめざす。また、市民が制作した作品などの販売を行い、市民が自らの作品を通して交流することも検討する。

5 具体的な活動と施設の活用

次に、新美術館での具体的な活動を掲げる。これらの活動を行うためには、すでに完了している建築実施設計の若干の見直し、変更が必要となる。

1階 アートと遊ぶスペース
  • 開放された出入り自由なスペース。ここでは、常にアート映像(動画)を流し、アートの雰囲気を演出する。
  • いつでもワークショップが行われ、自由な参加、離脱が可能なものとする。すなわち期間、定数などを計画的に設定したイベントではなく、市民が自らの都合で参加できるようにする。
  • キッズルームの設置。新美術館では、子育て層である母親や若い夫婦たちの交流の場とし、アートを通した子育て支援を行う。そのためには、乳幼児、児童を対象とする専用ルームを設置するとともに、子供と親を対象としたワークショップなどを行う。
2階 アートで憩うスペース
  • 清川コレクションルームを設置。この展示室は、従来型の展示室とし、施設内での特有の異空間を持つ場として位置付ける。
  • 「カフェ」的な空間を演出する。ドリンクを飲みながら、憩い、会話する場とするとともに、そのスペースに収蔵作品を展示して、定期的な展示替え(最長3か月)による作品の保存を図りながら、くつろぎのあるアート鑑賞の場を設定する。また、「カフェ」をはじめ、美術館内に置くテーブル、イスなどの調度品は、姉妹都市のオーデンセ市のあるデンマーク製のもので統一することも良いと思われる。なお、「カフェ」スペースは、1階に設置することが望ましいが、実施設計の見直しのなかで検討すべきと考える。
  • 美術展の案内、前売券の販売、情報の発信、図書の閲覧など美術のインフォメーションを行う。ここには、担当職員を配置し、市民への要望に対応する。また、コンピューターによるコレクション・アーカイブや国内外の美術情報の検索なども行えるようにする。
  • このフロアーのスペースは、市民のあらゆる年齢層に対応するように考慮するが、特に高齢者層を重視した設備とする。
地下 アートを楽しむスペース
  • ギャラリーを設置し、市民や若手の芸術家への貸しスペースとする。このギャラリーは、前述したように既存の市民ギャラリーにはない多目的な機能を持たせ、また、貸出にあたっては、スペースの構造(天井高、広さ、オープン性など)を生かした作品の発表を優先するなどして、既存の市民ギャラリーとの共存を図る。
  • 若手の作家の展示においては、制作の過程なども見られるようにし、作家との対話を通じてアートを身近に感じられる場とする。
  • 美術館の自主企画展の開催(年1~2回)、イベント的な映像の上映、音楽のコンサートなど多目的な活動の場とする。
  • ショップを設置し、国内外の美術館のグッズ、美術図書などを販売し、市民が生活のなかにアートを取り入れるためのものを提供する。
  • このフロアーのスペースは、特に若者層を受け入れるための設備であることが良い。

  
上記の活動にともない、建築実施設計の見直しが必要となるが、すでに実施設計が終了しているところから、見直しを最小限にとどめるべきである。その見直し、変更については、建築構造と深く関わることであり、本委員会には建築設計に熟知した委員がいないため、詳細かつ具体的な変更案を提示することはできない。
ただ、次の点においては、新美術館の活動において重要なポイントとなるので、それらを重視した設計変更を行うことを要望する。

  1. 近年、大きな地震が発生しており、それに対応する耐震構造に見直すこと。
  2. 全体を開放的なオープンスペースとし、バリアフリーであり、ユニバーサルデザインが取り入れられていること。
  3. 夜には外から光の輝きが見え、周辺の環境と融合した存在であること。
  4. 各スペースの垣根を取り除き、施設全体で連携した空間として利用できるようにすること。
  5. 1階オープンスペース、ギャラリーにおいて、映像活動ができる設備を設けること。
  6. 施設内のすべての場所で作品の展示を行うことができること。
  7. 小さな子供のための利用を促進するため、トイレ、授乳室、キッズルームなどの設備を検討すること。
  8. 市民の作品ならびに美術館の自主企画展での借用作品の搬出入ルート、また施設内での移動ルートを見直し、よりスムーズに作品の移動を行うことができるようにすること。

3. 新美術館を充実させるための課題について

1 建設のための組織、体制づくり

新美術館は、現在の社会において市民からの様々な要望に応えるため、従来の美術館にとらわれず市民のコミュニティーの形成の場を使命としたカフェ的イメージをめざしている。そのため、若い夫婦を対象とした育児サポートをはじめ、あらゆる年齢層に対応した多方面の活動が必要である。建設準備にあたっては、教育委員会だけではなく、関係部署が参画した準備室を設置すべきであり、統括には市上層部をトップとした組織で取り組まれることが望ましい。
また、最終的な人的体制としては、次の人員数が最低限必要と考える。
各階専門職員2名×3階=6名+事務系2~3名+館長1名=10名程度
これ以外に、展覧会を有料とする場合には、チケット販売、もぎり、監視員などの配置も必要となり、非常勤職員の雇用も必要となる。
さらに、夜間開館を考慮した場合、上記人員の1.5倍、すなわち15名程度の職員が必要となる。これらについては、市民ボランティアなどの活用も検討する必要がある。

2 建設、設置前の専門職員などの人材の確保

美術館の設置においては、市民の賛同を得ることが最も重要である。そのため、早くから専門職員である学芸員などを確保し、市民に向けたワークショップなどの活動を定期的、かつ継続的に行うことにより、市民がアートと触れ合う機会を促進し、美術館への理解を育て、美術館建設への気運を高めて行く必要がある。そのためには、美術館活動に高い意欲を持つ学芸員の確保が不可欠であり、そのうち半数はすでに美術館での活動経験のある者が望ましい。

3 活動プログラムの計画づくり

美術館の価値は、設置後の活動により評価されるものである。そのためには、新美術館の使命(ミッション)ならびに活動方針(コンセプト)に基づき、中長期的な活動計画を策定し、その施策としての具体的な運営方法、活動プログラムを作ることが最も重要なことである。これらを行うには、早い時期から市民や民間の柔軟な発想により企画をめざすアートマネージメント経験者を中心とし、美術館学芸員、子育てサポーターなどによるプロジェクトを組織し、新美術館の条例において活動に影響を与える開館時間、対象とする年齢層、入場料金等々の内容について検討し、その上でプログラムの計画や内容などの策定を行うことが大切である。

4 コレクションの充実

コレクションは、美術館の「魂」であり、美術館のポリシーとなるべきものである。現状での収蔵作品の質、数では十分な活動を望むことはできない。本来は収集方針に従い購入による計画的な収集を行うべきであるが、当面の間は寄付の受納により充実を図ることしかないように思われる。ただ、現状での市の受納状況を見ると、市内で活動する(活動した)作家の作品はすべて収集している傾向が認められる。美術館のコレクションは、その使命、設置目的により収集方針が定められ、それに基づき選定されるものであり、また収蔵後に活用できる(活用する)ものを受けることが重要である。選別のない収集は、いずれ美術館の収蔵庫に収まらなくなり、増設等の問題が生じることになる。

5 学校との連携

新美術館建設予定地は、非常に狭い土地であり、駐車スペースの確保が出来ず、周辺の道路事情からバスの進入も難しく、市内小・中学校などのグループ、団体による来訪は不可能と考える。しかし、新美術館において、学校との連携は重要であり、その活動が美術館の存在意義をもたらせることになる。グループ、団体での利用はアンデルセン公園内の子ども美術館に依存しながら、一体化した活動を相互協力して行うべきである。そのため新美術館においては、Webによるバーチャル美術館の発信、あるいは職員が直接学校を訪れて行う出前授業など様々なアウトリーチ活動を検討し、積極的に取り組むことが望ましい。

6 市民NPO、市民ボランティアとの連携

美術館の設置においては、市民の賛同を得ることが重要である。それには、前述したように建設前より学芸員による市民に向けたワークショップなどの活動を通し、市民がアートと触れ合う機会を促進する必要性があるが、同時に市民NPOとの連携、市民ボランティアの育成などを行い、美術館を市民にとってより身近なものにして行くことが重要である。また、ボランティアの育成は、高齢者のキャリア教育としても有効である。
さらに、前述した必要人員数だけでは、常に充実した活動を行うことは難しいため、常に市民NPO、市民ボランティアとの連携を図りながら、ワークショップなどの企画、育児サポートなどに積極的な協力を求めることが望ましい。

7 財政の確保

美術館建設ならびに活動には、多額の財政的処置が必要である。特に美術館を建設すると、毎年運営するための予算が必要となる。委員会の検討途中において事務局より試算額として年間1億4千万円という額が提示された。このうち人件費、施設の維持費などの義務的な経費が大半を占めることになり、美術館の事業費として充分とは思われない。また、美術館活動は、基本的に教育活動であり、それにともなう歳入を期待するものではないと考える。美術館にかかるお金は、コストではなく、公共政策、市民サービスのための必要経費として考え、継続的、安定的な財政措置をすることが望ましい。
その上で、新美術館をとりまく周辺の企業、商店、あるいは個人から財政面での寄附などを受ける施策も考える必要がある。たとえば、クラウドファンディングなどの手法を検討し、少額での寄附をめざすことも良いと思われる。これは、単なる財政的な支援を得る協力者という一面だけではなく、周辺の街と人が美術館を維持し、運営しているという意識を芽生えさせることにも期待することができる。

8 姉妹都市による国際感覚の目覚め

船橋市は、ヘイワード市(アメリカ)、西安市(中国)、オーデンセ市(デンマーク)と姉妹都市・友好都市として提携している。それらの市の持つ文化、美術、歴史などを美術館の施設、活動に取り入れることにより、市民が国際的な感覚を身に付け、国際人としての新たな活動を展開することが望ましい。

4. 吉澤野球博物館コレクションについての意見

本委員会において、市が新たに受贈することになった吉澤野球博物館の施設、ならびに同博物館の特徴的なコレクションである野球資料、さらに27点の美術作品等資料の活用方法について、新美術館の構想の中に組み入れ、その可能性についても検討した。
その結論は、次のとおりである。

野球資料について

野球資料は、関東六大学野球という狭い範囲での収集だが、大変貴重なものと思われる。しかし、新美術館で所蔵、管理することは困難である。受贈する吉澤野球博物館の建物をスポーツに特化した施設として、新たに改装し、設置活用することが良いと考える。ただ、受贈する野球資料だけでは、非常に狭い範囲のコレクションであるため十分な活動をすることは不可能と思われる。よって市が、今日まで収集された資料(たとえば、市立船橋高校による高等学校野球など)を含め、市民の馴染のある視点で公開すべきと考える。
また、今後の施設ならびに資料の活用方法、運営については、上記の意見を考慮され市役所内のスポーツを主管される部署が中心となり新たに検討されるべきである。

美術作品等について

美術作品は、新たに設置しようとする美術館に収蔵することは望ましくないと考える。
新美術館のコレクションは、市がすでに収蔵された「清川コレクションならびに市内作家の作品」が主体となる予定である。美術館の収蔵作品は、美術館の設置目的、あるいは使命を基準として選別され、収集されるべきものである。その意味から新美術館には、「清川コレクション」と市が収集された「船橋ゆかりの人を中心とした作家の作品」を保管し、紹介するという設置目的がある。
新美術館に、吉澤コレクションの美術作品を収蔵した場合、「清川コレクション」とともにふたつのコレクションが存在することになり、新美術館設置の発端となった「清川コレクション」を特化させた活動が困難なものとなる。さらに、吉澤コレクションの寄付作品のなかには江戸期の文書などの歴史的な資料も含まれており、それを収蔵することで美術館の収集方針が不明瞭なものになることが危惧される。この状態は、将来的に美術館にあらゆる資料が収蔵される結果を生じさせることとなり、美術館自体の存在意義が無くなることは明白である。よって船橋に在住された吉澤善吉氏のコレクションとして、野球資料とともに一括して保管、活用することにより、吉澤氏の顕彰を行うべきと考える。
なお、市のスポーツ関連の公開施設については、新たな組織、委員会などで検討されるべきであるが、本美術作品については、新美術館において市の所蔵作品として必要に応じて展示、紹介することは可能と思われる。

5. まとめ

1 提言の結論

一般的に美術館機能の充実を図るには、計画的なコレクションの収集、企画展覧会の実施などを行う必要がある。しかし、今回設置を検討した美術館は、従来の美術館の型にとらわれない新たな美術館像をめざそうとするものである。従来型のように行政が主体となって場や機会を設定するものではなく、市民が自らの意志で選択し、参加し、活動する場をめざし、アートの拠点として市民でにぎわう場を設置しようとするものである。そのイメージの象徴として「カフェ」という定義付けをした。前述したように新美術館を「カフェ」に転化しようとしているのではなく、市民が自由に出入りし、憩い、アートに触れ、アートの情報を得て、またその場に集う人々とコミュニケーションを行い、ゆったりとした時間を過ごす場を、「カフェ」という語で象徴した。また、インファント(乳幼児)を持つ若い親が集いやすくするため、キッズルーム、授乳室の設置など、その対応を明記した。これにより、乳幼児と親たちへの美術ワークを行うことにより、子育て層である母親や若い夫婦たちの交流の場とし、アートを通した子育て支援を行う。この活動は、将来的に美術館のサポーターとして成長していくことも期待できると思われる。これらは、従来の美術館のイメージとは異なるものではあるが、その背景には、前述したように船橋市が首都圏に位置すること及び公立美術館としてあまりにも後発の設置となることがあり、既存の他の美術館と同じ活動をしていたのでは活動に行き詰まり、埋没することは想像に難くない。本委員会においては、その点を憂慮し、新たな美術館像の創造を求め、「アートを通じて市民のコミュニティー形成をめざす場」を使命(ミッション)として、アートに特化したコミュニティーセンター的な機能を持つ美術館をめざしたものであり、行政側から市民への一方的なアートの提示から、市民の自主的なアートとの触れ合いに重点をおいたものである。

2 船橋市に期待すること

美術館の建設、それ以後の維持、活動には多額の歳出が必要となる。しかし、その反面、美術館の活動は、収益事業として歳出に対する同額以上の歳入が得られるものは皆無と言わざるを得ない。たとえば東京で開催されるような何十億をかけた展覧会ならば、それなりの歳入は期待できるが、本市が計画される新美術館では環境的、施設的に対応できるものではない。また、美術館活動は、教育的な活動でもあり、それにより歳入を求めるものではないと思われる。
また、美術館担当部署においては、美術館構想が停滞している間、美術館に対する市民の意識、要望などを知る努力をしてきたとは言い難い状況である。公立の美術館を設置しようとする以上、市民の理解、賛同を得ることは不可欠であり、市民への働きかけは継続して行うべきである。そのためには、早期に専門職員(学芸員)の確保をするべきである。
さらに市・教育委員会の関係部署においては、市民における美術(アート)の必要性を充分に認識され、市民生活の豊かさを求めるための公共施策として積極的に取り組み、継続的に活動するという姿勢を持たれることが重要である。
 以上のように美術館は、設置することが最終目標ではない。美術館の活動を通して、市民一人ひとりが憩い、語り合い、新たな創造をし、交流することが目標である。そのため美術館を設置することは、施設が存在する限り、その活動を続けて行くことが義務付けられることとなる。それは、施設をただ維持することではなく、活動を行うための経費の支出も継続する責務が生じることを示している。さらにその経費は、様々な状況の変化により減少するようなことがあれば、常に一定の基準を満たした活動はできなくなる。すなわち美術館を設置するということは、設置者が美術館活動に対する責務を果たし続けるという表明である。その点を熟慮され、美術館の設置を検討されることを期待している。

以上のとおり、本委員会において、検討した結果を提言する。

特記事項

※提言書作成に係る資料は下記リンクより委員会の各会議録を参照のこと

問い合わせ先

船橋市教育委員会 生涯学習部 文化課
電話:047-436-2894

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